リスボンからひたすら北へ
リスボン。
ここで一泊したのはユースホステル。太平洋がお庭というふ
れこみに魅かれたからだ。
空港からタクシーでサンタアポロニア駅まで行き、荷物を一
つ預け、海沿いを走る銀色の電車に乗って西に行く。
駅を降りてからは辺鄙な所だし、夜だったこともあって見つ
けるのに手間取った。
ふれこみどおり、目の前は海。都心を避けてここまで来た甲
斐があった。
ただしゆっくりもしていられない。
翌朝、朝食を食べながら海を見て、あらためてポルトガルが、
ヨーロッ パの最西端で、大西洋に顔を向けていることを実感。
再びサンタアポロニア駅に行き、列車の旅が始まった。ヴィ
アナ・ド・カステロまで、一気に北上だ。
列車を降りるないなや、ホームに宿の 客引きのおばさんが待
っていた。 なにしろ、まだ宿のことすら考えていな い矢先に、
躍り出てきたので 面食らっていると、地図を出し、宿の場所
を指さし値段を言ってくる。
充分安かったのだが、
「もう少し安くして!」
と頼むと、あっさりOK の返事。
では、本日の宿はおばさんの所に決まり!
歩き出すとおばさんが 「あれをごらん。」 と指さす先には、
ホームのベンチに腰掛けながら、今さっきの私たちのように
女の子ふたり組を熱心に客引きしているまた別のおばさんの
姿がそこにあった。
改札を出ると、今しがた雨が上がったようで、まだ石畳が濡
れていた。
おばさんの宿に着くまで、細い道を幾度も曲がりながらやっ
と到着した。 駅から近いわけではないが、町の中心で便利な
所だ。
着いた先は、ホテルではなく、おばさんの家だった。
つまり、民宿というのか、つい最近思いつきで始めたような
感じがただよっていた。 部屋は女の子向きのかわいいもので
(多分お嫁に行った娘さんが住んでいた部屋では?)清潔だし
気に入った。
荷をほどいていると、賑やかな声が聞こえてきた。おばさん
の友達でも来たのであろう。 私たちもさっそく外に出てみよ
うと準備を整え廊下を出て玄関に向うと、おばさんが、友達
を紹介してくれた。(ちなみに私たちは最初からお互いの言
語で会話しているため、すべてはカンと推理で成り立ってい
る。)その友達は、どこかで見た顔だった。そう、駅のベン
チで客引きをしていた、もう一人のおばさんだった。
陽気なふたりのおばさんに見送られながら、私たちは古い町
に飛び出した。
まずはこの町の中心地、レプブリカ広場に出て、カテドラル
を見学。
リマ川にも出てみる。海に近いこのあたりの川幅は広い。
16世紀からハンザ都市との貿易で栄え、18世紀には金鉱発
掘のブラジルとの交易があった町なのだ。
あたりが薄暗くなってそろそろ夕食の時間となったころ、
おばあちゃんがやっているシブいレストランが美味しそうだ
と目をつけて入ってみた。
まず、前菜の野菜のスープが格別で、メインは白身魚のフラ
イと揚げたポテト。サラダとデザートのメロンが付いて、更
に黙っていてもワインが それぞれにハーフボトル付いて一人、
1350エスクードだった。(1000円位かな)
すっかり満足して、宿に戻ろうと歩いていたら、通りがかった
カフェの客が 私たちを呼んでいる気がしたので、振り返って
見てみれば、わざわざ店の外 にまで出てきてこっちに来いと
手まねきをしているのは、良く見たら、なーんだアミーゴじゃ
ないか! (アミーゴ=友達=さっきの宿のおばさんの
アミーゴ=客引き仲間のおばさん)
もうおばさんの宿まではあと一歩だったが、誘いに乗ってカフ
ェに入ってみれば、私たちの宿のおばさんがニコニコしながら
座っている。
二人はいつのまにかきれいな服に着替えてナイとライフ(と言
っても、カフェでコーヒーを飲みながらテレビを見ながら笑
っているだけ)をエンジョイしていた。 アミーゴは私たちに
コーヒーを奢ってくれた。
うちのおばさんには安い宿代を値切った上、アミーゴにはコー
ヒー代まで出してもらって申し訳ない。 アミーゴは見た目も
男まさりで、積極的である。
私たちの想像によると、最近未亡人になって淋しがりやでお
っとりしたうちのおばさんを誘って、空いている一部屋を貸
してしまおうと、駅に客引きに行き、お小遣いを稼ぎ、今や
陽気にその生活をエンジョイしているたくましいふたりなの
ではないだろうか。 ふたりのおばさんたちはカフェに備え付
けのテレビを見ながら、ガハハハハ!と笑っていた。