ミドリ ジュニアモグラス CHAPTER1 栄光への挫折




ジュニアモグラス魔改造開発秘史



 オヤヂ博士レストア直前のジュニアモグラスの状態。
 1968年に緑商会が発売したジュニアモグラスは、ゼンマイ式SF戦車という同社としては異色のスペックだったが、これをモーターライズにするというオヤヂ博士の構想は10年ほど前から進められていた。当然ベースとなったキットは童友社再販ではなく、1970年代末期の緑商会廃業直前に再版された最終ロットのものである。
博士は一旦シングルモーターによる前後進、ドリル、カッター回転まで漕ぎ着け、その外観はモデルグラフィックス誌1994年4月号にも掲載されたが、当時の自作ギアボックスは精度が悪く、破損によるメンテナンスも必要であった為、今回思い切ったグレードアップを図るべくギミック回りの完全レストアに踏み切った。

 まずオヤヂ博士は前作同様に1モーターで前後走行とドリル、カッター回転を賄う案で検討を開始したが、仮組段階でアリイの1/48リモコン戦車のギアボックスがギリギリ収容出来る事が判明し、プランの再検討を行った。
 所でシンメトリーな2モーターのパワートレインでドリルやカッターといったギミックを動かすと対照性のバランスが崩れる為、ドリル戦車の場合は更に独立した動力系統が欲しい。そこで作業は3チャンネルリモコン仕様として着手された。

 問題は3個目のモーターとギアをどのようにレイアウトするかであった。車体中央部分にはカッターがある為走行用にアリイのギアボックスを組み込むとそこには5mmほどの隙間しかなくなり、車体内部空間は前後に分断される。問題のドリル基部となる車体前部空間は、FA−130タイプモーターすら入らないので、マイクロモーターとウォームギアを組み合わせた人差し指第1関節大の減速ギアを試作して車体前部空間に装着した。高速回転とまでは行かないが十分にギミックに耐え得る回転である。後はその一部から更にカッター回転用の軸回転を抽出すれば良い。カッターは軽量のためそのぐらいのパワー抽出は可能と判断された。所が!

 仮組で自作ギアボックスを組み込んで装着位置の微調整中に突如モーターが沈黙してしまったのである。原因究明するも不明。ユニットの小型化を優先して作られたギアボックスはマイクロモーター本体をベースとして瞬着直付けで組み上げたものである為、モーターの回転状況確認の為にはギアユニットその物を分解しなければなら無い。涙を飲んで取り出したマイクロモーターは単体でも二度と回転する事は無かった。そこで試

 左は原因究明の為に分解された1号ユニット。右はやはりモーター焼損により放棄された2号ユニット。大きさ比較の為1円玉の上に乗っているこのシステムは、このサイズで100:1の減速を実現するはずであった。
作2号機ユニット製作に着手。今度は前回の経験を踏まえてギアのすり合わせもスムーズに行き、より精度出しがタイトなユニットが完成して再度仮組。ドリルの回転も良好…と思いきや、本体とドリル軸とギアユニットの直線バランスがずれた段階でまたもや沈黙!その時博士はモーター本体から微かな煙が出たのを目撃した。触ってみるとモーター本体が僅かに熱を持っている。そういえば前回のユニットもそうだったような気がしたと気付く。それは熟考してみればすぐに分ったはずの事である。無理な力で回転を止められたモーターがとある極相で通電しっぱなしになり、蜘蛛の糸のように細いコイルがどこかで断線したのだ。これはギア組み精度の問題とかの原因ではない。ドリルという大仕掛けなギミックでは、動作中に過荷重で回転が妨げられる事は十分に考えられる。その度にモーターが破損する確率が高いシステムに生き残る余地は無かった。マイクロモーターで余裕度の無いユニットを構築しドリル回転をさせるというアプローチそのものが袋小路に入り込む方法論だったのである。…オヤヂ博士へこむ…。

 そして再挑戦!大前提はドリルギミック用のモーターはキャパシティの高い130タイプのものとする事。それは必然的にモーターのマウント位置を車体後部にとる事となる。パワートレインはベルP−39エアラコブラのような延長軸を車体中央部の5ミリの隙間に通すイメージとなる。最初の案で自作モーターユニットの設置を予定された車体前部の空間は、そのど真ん中を貫通するドリル軸の為に纏まったギミックを収容する事は出来ない「死に体」の空間となり、延長されたドリル軸はセッティング精度を上げないと、回転軸のブレやギアの噛み合わせ不良の原因となる。
 博士は軸の保持位置を試行錯誤し、軸穴にハトメを埋め込んで精度と強度と加工しやすさという背反する要請をクリアし、遂に車体後部にマウントしたモーターから安定した回転をドリルに伝える減速ギアシステムが完成した。その段階でカッター回転の為のパワー分岐も解決している。モグラス本体をユニットの外殻としたギアシステムは高い強度を確保し、モーターはチューンドモーターの使用すら可能となった。これでほぼ3モーター組み込みによるジュニアモグラスの完成は確実なものとなった。


 白い最終出力ギアの右上に見えるのが問題の貫通腔。こちらの面は直径2mmだが、裏側からは表面のすぐ下まで直径4mmの穴が通っている。
 しかし、その時オヤヂ博士の手にあるものが握られていた。今回ドリル回転検討用に購入し、回転軸の出力位相の折り合いが全く付かずに使用を断念されたキャラメル大のギアードマイクロモーターである。そのモーターユニットの中央には直径4mmの取り付け用のビス穴が貫通していた。博士の目があの役立たずと思われた車体前部の「死に体空間」に向けられた…。
 「ドリル軸をこの貫通腔を通して逃がせば、あの空間にこのユニットが収まるのではないか?そうすれば…。」

 先行したモデラー達が1モーターでモーターライズ化したジュニアモグラスを一気に3CHリモコン化する計画は、しかしこの瞬間に更に空前絶後の魔改造「4CHリモコン化計画」へと歩み始めたのであった。
 

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