ミドリ ジュニアモグラス CHAPTER4 ギミック発動編 




 後方から見たジュニアモグラスには小型キットとは思えない意外な重厚さが漂う。

 ジュニアモグラスのバックビュー。

 陸上自衛隊特車という設定の車体はオリーブドラブをベースに塗装された。
 当初AFV的解釈で「墨入れ」「ウォッシング」「ドライブラシ」「塗装のハゲの再現」「汚し」等リアルな一般的塗装を施そうとしたが、巨大な地圧の中を走行するSFメカの塗装が地上車輛の様にハゲるのでは逆に不自然ではないか?と考え、特殊な耐圧強化塗装という解釈の下でハゲ、汚しは一切行わない事とした。その代りドリル部分以外で最も岩盤との接触が激しいと思われるフェンダーのエッジ部分は、車体の特殊金属が露出する無塗装状態をイメージしてメタリックグレーを吹いている。(下の写真参照)

 また、この角度で見ると、ギアボックスと同時に流用したアリイのセンターガイド付きゴムキャタピラが、意外にリアルな質感をかもし出している。
 因みにこのキャタピラはオリジナルのままでは当然長さが合わない為、一旦切断して長さを調整した後、あらためて瞬着で繋ぎ直してある。
 

 慎重に整形されたドリルは重心の偏心も改善された。若干の振動はあるものの高速回転もスムーズである。

 チューンドモーターのハイパワーによって高速回転するドリルの迫力。ミサイルの影になって分りにくいが、カッターも連動して回転している。
 カッターは上下方向に若干の「遊び」を設けている為、指が触れるなどして制動がかかるとクラウンギアとピニオンギアの接触がリリースされる安全設計となっている。これはジュニアモグラスのモーターライズ改造を先行したデミタスさんの設計思想と同じ発想である。
 

 ドリルとカッター回転の為に1チャンネルを割いているが、高速回転では「正転」「逆転」の違いは目では判別がつきにくく、効果的にはあまり意味の無いものとなる。そこでドリルギミックと連動し、ドリルの逆転時のみ室内灯が点灯するようにした。
 
 室内灯のドリル正転消灯時(左)とドリル逆転発光時(右)ではコックピットの見映えが劇的に変わる。

 仕組みとしては発光ダイオードを使えば電流の向きに選択的に呼応した発光を実現出来るが、一般的発光ダイオードの「緑」「赤」「黄色」の色では、オリジナル最後期版ロットの赤いキャノピーにフィットする色の折り合いがつかず、また光量(輝度)不足の問題もあって光源には板鉛で遮光したムギ球を使用した。数年前にやっと開発された「青色ダイオード」を使用するといわれている高輝度白色ダイオードはまだまだ模型用に入手できるようなものにはなっていないようである。
 具体的には配線途中に整流ダイオードを噛まして一方向の電流の向きだけに発光するようにしてある。シリコンダイオードは車体右側内壁にレイアウトされている。
 当初モーター回路にも室内灯とは逆位相にダイオードを組み込み、スイッチの正逆転でドリル回転と室内灯発光を切替える方式も検討したが、高い消費電力を要求するチューンドモーターにとってはダイオードを組み込んだ回路はパワー低下が顕著で、メリットデメリットを検討してモーター用結線からはダイオードを撤去することが決定された。但しこのアイディアは1チャンネルの正逆転で2つの独立したギミックを賄えるという可能性を秘めており、今後の適材適所への応用が期待される。
 発光をドリル逆転時にセッティングしたのは、正転時のドリル回転の回転数低下を避けるためである。
  

 地中深く単身作戦行動を取る戦士の心境や如何に?フィギュアの存在はSFモデルにリアル感とドラマを添える。

 キャノピー部分のアップ。

 キットオリジナルの状態ではキャノピー内部に座席部分の容積が無く(みずよんさんの作品参照デミタスさんの作品参照)全身像のドライバー着座には無理があるので、オヤヂ博士は今回のレストア開始以前に、キットのキャノピー後側の壁をくり貫いてゆったりとした操縦席スペースを確保していた。影が交錯して分りずらいかもしれないが、ドライバー正面にはプレート状の小型発光ダイオードを流用した透過型ディスプレイ装置を模した装備があり、その他若干のディティールアップも行っている。

 フィギュアはフジミの1/72「米海軍フライトデッキクルー&牽引車セット(FLIGHT DECK CREW & CARRIER TRACTOR)」の牽引車ドライバーの流用。このドライバー氏は1/72スケールにしては異様に手足が長い為、ドクターオヤヂの外科的手術によってその調整を施されている。
 

 最大仰角時にミサイルを自動発射するギミックも設計を完了していたが、「仰角をかける力」そのものでストッパーをリリースする仕組みのアイディアは、スペースの関係で仰角ギミックの強度確保ができなかった為、残念ながら破棄された。確実な動作を確保する為の強度とギミックのバランス判断は重要なポイントである。
  

 ミサイルの仰角変更ギミックと連動して点滅するパトライトの様子である。

 ミサイルの上下動は単純な往復運動である為、ここもドリル回転と同様に仰角変更だけでは「正転」「逆転」に動きの差は生まれない。それでは正逆転コントロールのメリットが半減するので、一方向でのみパトライトが点滅するようなギミックモード切り替えとなっている。

 点滅回路はそもそも回路接続仕様に正負極の指定がある為、室内灯の時のようにシリコンダイオードの追加のような手間はなかった。但し今回使用した点滅回路のサイズに付いては言及が必要であろう。
 実は10年程前に購入した点滅回路はキャラメル大の回路容積を必要とした為、仮組段階でその使用計画は断念せざるを得なかった。しかし製作途中段階で新たに入手した回路は、その大きさがワイシャツのボタン程度のサイズしかない為に、無理なく操縦席天井に張り付けることに成功したのである。値段も旧タイプの半値以下の600円であった。マイクロギアードモーターの導入もそうであるが、ジュニアモグラスモーターライズ改造計画着手以来10年という歳月は、その間に成された様々な新技術の積極的導入という点で決して無駄な時間ではなかったといえる。
 

 ミサイルランチャーに僅かに仰角をかけ、西日の中で発進命令を待つ陸上自衛隊のJM型地底特車331号車。
 全長が僅か172mmのキットとは思えない迫力で迫るこのジュニアモグラスは、オヤヂ博士の魔改造技術と完成まで10年に及ぶ執念、そして何よりもSF戦車に対する深い愛情の結実といえよう。
  

 そして・・・

 今は亡き同い歳のいとこと2台並べて畳の上で遊んだ初版ジュニアモグラス。キットに付いていたプラスチック製のゼンマイ用ネジ巻きはすぐに角が削れて使えなくなってしまった。オヤヂ博士は自分のガラクタ箱から2つの金属製ネジ巻きを取り出して、1つをいとこにあげた。
 「あの時プレゼントしたネジ巻きは、あれからどうなったのだろう。」
 オヤヂ博士の胸に蘇ったものは、もう還らない仲良しだったいとことの、30年前の想い出であった。完成したジュニアモグラスを前に、一人グラスを傾ける博士は照れ笑いでこうつぶやいた。

 「けんちゃん、わしは今でもこんなものを作っているんだよ。なんだか可笑しいよねぇ…。」

 その晩オヤヂ博士はちょっとだけ、世界征服のお仕事をおやすみにした。

  



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