フジミ模型株式会社
  
≪特報≫ 海底軍艦 轟天號 フジミより発進!


キットレビュー5


 今回このキットの企画に関して、末席ながらもお手伝いさせて頂いた結果、普段一ユーザーでは接する事が出来ない情報に触れ、また幾つかの貴重な経験をさせて頂きました。そのひとつにパッケージイラスト依頼の為のラフスケッチコンペがありました。
 プラモデルという商品を産み出す過程に於いては色々な手続きがありますが、パッケージデザインを決定する事はとても重要な過程のひとつです。今回パッケージイラストを高荷義之先生に依頼するにあたり、先生に作品のイメージを掴んで頂き易くする為に、3人の人間がラフコンペを行い、其々で描きあげたスケッチを提示して、その中から高荷先生が最も気に入ったイメージでイラストを描いて頂こうというものです。
 こういった経緯も本来は公の場で公開されることは殆ど無いのですが、プラモデル開発のひとつの側面を知って頂く為に、今回特に許可を得て公開させて頂く事になりました。

 タイトなスケジュールが更に圧縮されるような状況の中で結果的にはコンペに間に合わなかった作品や、イラスト作成が開始された後で純粋に個人の趣味として追加製作された作品などもありますが、よい機会かと思いますので一緒に掲載させて頂きました。

※ 当サイトの全ての海底軍艦関連画像はフジミ模型「海底軍艦」の広告告知のために使用された物です。
   無断転載及び掲載を禁止します。
   協力/東宝映像事業部  (C)東宝  TM&(C)1963 TOHO CO.,LTD.

 まずは高荷先生のパッケージイラストの原画から。キットレビュー1のパッケージ画像と違い、パッケージロゴなどの一切無い純粋な作品として堪能出来るのは原画ならではの趣である。
 キットレビュー1のパッケージ画像は、店頭発売直前にプラモデルの王国が入手したキットをアセアセ状態の中、デジカメで深夜撮影した為に若干光量が足りず、補正にも限界があってディティールがつぶれてしまっているのに比べ、岸川氏に提供して頂いたこちらの画像は微妙なニュアンスも伝わるピュアなもの。
 水の動きの迫力は言うに及ばず、船体の重厚な質感や水面の青が写り込むドリルの陰影、船体中央部から噴き出すドレン水の演出や、いやが上にも興奮を高めるバックの空のパース表現など、高荷氏ならではの素晴らしいタッチの作品である。
 

 さて、まずは上記作品の直接の元となったラフコンペ作品を紹介しよう。今回の轟天号キットのルーツが「東宝」で、その生みの親が「フジミ」なら、このキットがこのような形で商品化されたという意味では育ての親ともいうべきアドバイザーである岸川氏のスケッチがこれである。
 王国の掲示板でも”けんた”のハンドルネームでお馴染みの岸川氏は、東宝SF作品をはじめとする映像作品のソフト化(ビデオやDVDなど)を数百本手掛け、またスタートレックシリーズの日本語訳監修や小説版の翻訳、あるいはアメリカの最新情報アナウンスなどで国内トレッキーにとってはなくてはならない存在であるなど、我国のビジュアルSFシーンで活躍するキーマンであるが、その彼の意外な一面がこのイラストのテクニックである。
 画面右上の文字が潰れているが、バックに関して「南洋の山々」と注意書きが記され、作品イメージを的確に伝えている。
 将に飛び立つ瞬間の海底軍艦という構図は、やはりパッケージアートとしての最も重要な要素が「インパクトある第一印象」である事を再認識させるラフスケッチである。
 

 次は王国掲示板では”飲食店経営者”のハンドルでお馴染みの小宮山氏の作品である。
 先の岸川氏の作品と同じく、映画「海底軍艦」で轟天号が水面から浮上する劇的なシーンを,よりリアルな構図で描いている。
 小宮山氏は模型雑誌のライターとしても活躍されており、特にSF関連メカの造詣が深い事で知られているが、中でも轟天号は以前フルスクラッチで展示用作例を手掛けた経験もあるほどのファンである。
 荘厳な感じすら受けるこの轟天号の姿は、将にこの雰囲気でもう一枚高荷先生のイラストを見てみたい気もするなぁと思わせる魅力を持っている。
 

 これも小宮山氏のラフである。三重螺旋ドリルを自作された氏だけに、小宮山氏の作品はいずれも拘りのあるドリル部分の質感が素晴らしい!
 逆巻く波を強調し、画面上部空間には飛び騒ぐ鳥を配する等先の作品に比べて更に動きを加えた内容になっており、上向きに角度を増した轟天のアングルも利いている。
 また、艦橋部分もディティールを加え、やや逆光ぎみの難しいライティングで実感を高めているのも注目すべき点である。
 今回ラフコンペ用に準備された作品(ほぼA4サイズ)を横幅400ピクセルに縮小しているため鉛筆画の微妙なニュアンスが潰れているが、岸川氏、小宮山氏のスケッチは全て一つずつ大画面で紹介したいほどのクオリティーを持つ作品である。

 小宮山氏の作品が続く。これは前のスケッチの鳥の構図や船体の角度を踏襲しながら、更に波の表現を強調している。
 「全長150メートル、重量一万トンの構造体を宙に浮かべるジェット噴射が起こす波とは果して如何なるものか?」という自問自答の結果生み出されたような水面の表現は、映画「十戒」で紅海が割れるクライマックスを彷彿とさせるスペクタクルな絵面である。
 先の作品に比べてゴツゴツと盛りあがって表現されているバックの山々も、奥行きに閉塞感を与える事で逆に画面に緊迫感を産んでいる。
 この画面を暫し凝視していると、一見漆黒に見える水の中央部が恐ろしく透明感を持った水塊に転じる錯覚に陥る。

 ラフコンペ終了後に、更に小宮山氏の純粋な趣味として描かれた一枚。直前のラフスケッチの波の表現に自己インスパイアされたようにも見受けられる構図ながら、一方で波を突き破って飛び出す轟天号は”ぎゅうん”とデフォルメーションの利いたパースとカッチリした輪郭でコミカルに仕上げられている。
 気が付かれた方もおられると思うが、これは轟天号の設定デザインを手掛けた小松崎茂氏の代表作のひとつであるイマイのプラモデル「ジュニア707Bクラス」のパッケージのオマージュとして描かれている。
 艦首部分が飛び出している海上の光景と船尾が残る海中の様子を、ワンショットで巧みに描ききった「小松崎キュビズム」とでも呼ぶべきパノラミックな構図はそのままに、主役メカ部分を巧くコラージュしている。
 小松崎海中イラストでは必ずと言って良いほど登場する、御約束の熱帯魚君がきちんと登場しているのも楽しい。

 僭越ながらも最後は”高見@ねこにいプロダクツ”のラフ。
 SF艦艇プラモデルでありながら、シーウェイモデル(ウォーターラインモデル)さえ選択出来る1/700スケールキットのコンセプトは?という自分なりの問い掛けの結果、先の岸川氏や小宮山氏とは全く違う、飛んでいない轟天号というパッケージのアイディアが生まれた。それは「動の轟天号」に対する「静の轟天号」であるが、荒唐無稽なはずのメカを現存艦艇(あるいはそのキット)と同じ次元で捕らえることで新しい切り口をアピールしようとしたものである。

 このアイディアの元になったのはやはり高荷氏の名作、イマイのプラモデル「サブマリン707Cクラス」である。それまでの707号のプラモデルパッケージは「水中で活躍する潜水艦」というノリで、迫力はあるが実際には空想イラストの域を出ないものであった。しかし、この箱替えCクラスのボックスアートは水上航行で帰航する707号を斜め後ろから捉えた、一見平凡な構図ながらも逆にその構図が日常の風景としてしっくりと胸に納まり、高荷氏の精緻なタッチと相俟って非常にリアルな作品に仕上っていた。あくまでもマンガのメカであるサブマリン707号が、実際に存在するようなものとしてプレゼンテーションされたこのイラストは、子供ながらにカルチャーショックを覚えたものである。今回高荷氏に轟天号のパッケージをお願いするに当って私が考えたのが、将にこの方向性であった。
 しかし707号と同じように後ろから捉えたアングルでは轟天号に限っては「絵」にならない事や、あまりにも707に似たコンセプトになってしまう為、アングルは前方からの構図とした。また画面に手旗信号を送る人物を取り入れたり(艦橋上)、その他甲板に数人の人影を置く事で、一層人間とのリアルな絡みのある味付けも考慮した。
 但し、模型パッケージとしてはやはりインパクトが欠けている事を認めない訳にはいかず、今回迫力ある構図で轟天号の魅力を遺憾無く表現したイラストに落ちついたのは最も順当な結果であったと納得した次第である。
 

←キットレビュー4へ戻る  
  キットレビュー6へ行く→
TOPページへ戻る
トピックスのページに戻る